野獣宣言

 野良犬と本気で戦って負傷した人間が星の数いるだろうと推測して、話を進める。
 僕は野良犬よりも腕力が強い。狂犬病のように厄介な補助攻撃魔法を持つ野良犬ならばいざ知らず、そんじょそこらの野良犬には絶対に負けやしない。ものの10秒でチグしてハグしてゲームオーバー。何の後腐れもなく帰宅してごはんを食べる。


 思うに、野良犬とは現代人の意識下に眠る破壊衝動、それに伴う性衝動(リビドー)を具現化した存在なのではなかろうか。かのフロイトは夢の中で全裸の美女を思い描いた所為で弟子のユングに散々罵倒され、テムズ川に身投げした。人生とはテムズ川のようなものであると言っても、何ら問題はないだろう。
 だが実際の野良犬は野良の犬である。飼い殺しにされていた犬が野生の本能を呼び覚まし、人に噛み付いてしまうケースは珍しくない。そういう犬は棒っきれでボコボコ殴られて道に捨てられる。犬への愛情とはいつも一方通行なのだ。
 問題は野良犬の飼い主である。理知的な振る舞いを心掛けながらもコートの下は淫売である場合が殆どだ。かく言う僕も淫売である。往来を行く人々に自分の疼く体を慰めてもらいたい、という欲望がある。隠し切れぬこの情熱! 今夜私は野良犬と交尾をする!