書を捨てよ町田は神奈川

 飴ちゃんが好きではなかった。というのも品行方正清廉潔白を絵に描いたように生きてきた私にとって、唾液まみれで口内に居座りいつしか消える飴ちゃんはライクア鼻水、品のない食べ物の代表格として映っており、自分がそれを口にすることに昔から強い嫌悪感を感じていた。という理由を今こじつけた。本当はなんかしゃらくせーと思って一切食べなかった。もちろん自分で買うことはなかったし、誰かから飴ちゃんを頂く機会があっても、上の飴ちゃんは軒下に、下の飴ちゃんは全て屋根に投げて強い歯が生えるよう祈ったりしていた。おかげで強い歯が生えた。(私は永久歯と書いてとわっぱと読むロマンチストだ)

 

 ところが44年経ってみて再び飴ちゃんを口にする機会が訪れた。諸事情で歯が全て抜け落ちたので、歯の代わりにコーンをぎっしり歯茎に詰めていたら上司にこんなことを言われたのだ。

 

「おい、貴様、歯をコーンに、するな!」

 

 これにカチーンと来た私はこう言い返してやったのだ。

 

「ふがふがふがふがふが」

 

 歯がコーンなのでうまく喋ることが出来ないのだ。これでは意思疎通もままならない。盲点だった。腹を立てた上司が大きなしゃもじで私の尻を叩くとその衝撃で私の歯(コーン)は全て抜け落ちた。拾い集めたコーンで床にCORNの文字を象った後、私は会社を飛び出し道すがらオイオイ泣いた。歯もコーンもない私はもうどうしていいかわからなかったのだ。

 

 色々割愛するが、久しぶりに飴ちゃんを舐めたらおいしかったので最近よく買う。美味しいので人にあげたくなったりもする。大阪を出て44年、やっと大阪のおばちゃんになれた、そんな気がした56の夜。(44+56=100)