涙の理由

 ある朝僕が目を覚ますと、金縛りになった血まみれのおばあさんが横で寝ていたんだ! 心底びっくりした。そのような事実は一切ないが、読者受けはしそうなのでこのまま続ける。
 老婆は僕が目を覚ました事に気付くとしゅるしゅると着物の帯を解き、襦袢だけの姿で僕に襲い掛かった! 驚いて傍にあった拳銃をぶっ放すと老婆は着弾の衝撃で向かいの壁に勢い良く叩きつけられた。ぐぷっ、と赤黒い血を吐き出す老婆。被弾した腹を押さえてうずくまり、うううっ、と小さな声を漏らす。冷静になった俺は老婆の元へ駆け寄った。「大丈夫か!」と声をかける。すると老婆は「ふふふ…大きくなったねェ…」と力なく微笑んだ。あれ…この顔は…?


 ああ、俺は何という過ちを犯してしまったのだろうか!


 この人は、俺の、お母さんだ!


 出来るならこのような形で再会したくなかった。俺がまだ小さかった頃、父の暴力に耐えかねて行方をくらましたお母さん。実に20年ぶりの再会。それを俺は…。
 母の亡骸を腕に抱き、声にならぬ声をあげながら涙を流す俺。ぽたり、涙の粒がお母さんの肌に落ちた。するとどうだろう。お母さんの肌がみるみるうちに赤みを持ち始め、止まっていた心臓もまるでランナーズ・ハイ状態。お母さんはムクリと起き上がると、ギギギ、とうめいた。メカお母さんの誕生だ。